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web漫画 空白の人 感想

今日から定期的に自分が読んだり聴いたりした漫画、本、音楽etcの感想を書いていきたいと思う。今回はweb漫画家のしまくさんが描いた「空白の人」という漫画の感想を綴っていきたい。

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空白の人

 感想

(ここからはおそらくネタバレを含みます)

 

まず一通り読んでみて思うことは、「この作品はすごく適当に作られているな」ということ。キャラクターの造形はしっかりしているが、背景などは下書き段階のような感じでかなり適当にしか描かれていない。そしてなによりも最終話の投げやりさ。「もう描くの疲れた」というような作者の気分がひしひし伝わってくる。十分練られた設定や展開があるわけでもなく、ただ淡々と話が進んでいって唐突に幕切れとなる。一般的にはあまり評価されないだろうなと思う作品である。しかし自分はこの漫画が大好きだ。理由はいくつかある。

主人公に共感する

「空白の人」の主人公は自分に自信が持てない男だ。ほぼ引きこもりのような感じで、コミュニケーション能力が低く、世の中に対して常に後ろめたさを持っている。作中で彼は妹の意見もありバイト探しを始めるが、結局チキってしまい面接に行くこともできない。言ってしまえばダメ人間という部類に入る男だろう。

だが、自分はそんな主人公に共感を覚えずにはいられなかった。自分も大学生というポジションではあるものの、多くの時間を家で一人で過ごしており、世間の人と思うように関われないことも多々あるし、バイトもやっていない。主人公が劣等感、不安感、焦燥感を覚えるシーンが様々な場面で出てくるが、その一つ一つに強い共感を覚えた。人のリアルな心情を描写することができているという点だけでもこの漫画は評価に値すると思う。そして、興味深いのはそれだけではないのだ。

作者の姿がなんとなく見える

あらゆる漫画には作者の体験したことや思ったことが少なからず見え隠れするものだと思うのだが、この漫画はそれが特にわかりやすい気がする。「空白の人」を通して、作者がどんな人なのか、というのが何となくわかる気さえするのだ。

例えば、第一章「青空」の二話では、山田詠美の「学問」という本を読んだ主人公が次のように心情を吐露している。

青春・・・ 

この小説で描かれているような青春は俺にはなかった・・・

むごい・・・

もう手に入らなくなってからその価値が分かるようになるなんて

こういった部分は作者の心情がもろに出ていると思う。これはもはや主人公の言葉ではなく作者の言葉だといっても過言ではないのではないか。作者がこういう風に思ったのが「学問」を実際に読んだからなのかどうかはわからないが、少なくとも作者は「青春時代を満足のいくまで楽しむことができなかった」という後悔を心のどこかに抱えていてそれを認識しているのではないだろうか。自分は主人公を通して作者のしまくさんに(勝手に)親近感を覚えた。

作者について

 「空白の人」を描いたしまくさんは他にも「がっしょう!」というweb漫画を公開している。

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この漫画も「空白の人」と同様、描き込みが丁寧というわけではないのだが、他の人の輪の中にうまく溶け込めない主人公の姿をうまく描きだしている。未完結のまま更新が終わってしまっているのが残念だが、「空白の人」に比べて話数も多く、微妙にギャグ的要素も入っており、読みやすいのでおすすめだ。

で、この二作品を作ったしまくさんが今何をしているのかというと、全くわからない。しまくさんのtwitterも2013年ごろから全く動いていないようだ。

twitter.com

作品の更新があったらぜひとも読みたいなあと思うのだが、この全く音沙汰のない現状から考えるとしまくさんの復帰はおそらくありえないだろうなと思う。

先ほど「空白の人」の主人公の姿を通して作者の心情が見えてくると述べたが、twitterの失踪や他作品の更新の停止といったしまくさんの状況をみていくと、ここでもまた「空白の人」の主人公が作者・しまくさんとシンクロした存在のように思えてくる。両方に共通しているのは、やろうとしていたことを放棄し自ら姿を消してしまったという点。こうしてみていると、「空白の人」は作者の生きざまそのものを示していたようにも思えるのだ。とすれば、最後のあの投げやりなラストは、作品としてある意味適切なものだったのかもしれない。しまくさんが「もう終わりでいいや」と思ったから終わりになった。でいいのだと思う。それが作者の感情とシンクロして作品が進行するということなのだから。むしろあるべきところに収まったな、という感覚すら抱く。

 

そういうわけで自分はこの漫画が大好きだ。もっとその(意図されなかった)芸術性が評価されてもいいのではないかと思う。ついでにいえば、キャラがみんなかわいいし。

 

最後に。読み返すとしまくさんについてだいぶ失礼なことを言ってしまったような気がするが、一個人の意見であるし、作品と作者に対する愛から来ているものなので許してほしいです。。。